2005-1-20

「石油ピーク」と地球温暖化:人類は温暖化させ得るか?

石井吉徳

石油価格の変動が激しい。その理由を一過性と考え、寡っての石油ショックと比較し大丈夫との楽観論が多いが、これは間違っている。何故なら、1970年当時はまだまだ石油発見されており、世界の油田は元気だった。しかし今はもう大油田は発見されず、中東の巨大油田も年を取った。
エコノミストは市場至上主義、科学技術者は技術至上主義に立ってこれからも大丈夫と国民を安心させる。この2つの幻想が物質的経済成長、20世紀の「大量生産、大量消費、大量廃棄」をいつまでも推進させる。環境は廃棄物は循環すれば良いと考えるが、しかしゴミは増えるばかりである。二酸化炭素も人間社会が大気に出すゴミである。
ロシアの賛成によって京都議定書が発効する見通しとなり、また技術ので出番となる。二酸化炭素も回収して海に地下にとなる。水素は二酸化炭素を出さないなどと、いう人さえ出てくる。このようにして日本でもエネルギー消費は増え一方である。陸にはゴミがたまるばかり、規制すれば不法投棄となる。どこかがおかしい。熱力学の第二法則、エントロピー則で考えればよいのだが、残念ながらそうはならない。

20世紀は石油文明であった、その石油に限りが見えるのである。石油は現代農業をも支える。合成化学材料の原料でもある。石油は現代文明の生き血なのである。だが専門家は石油の供給は大丈夫と言う。だが世界の石油発見のピークは、均して1964年、今では消費の3〜4分のT程度しか補えない。人類は40年前の遺産を食いつぶしているのである。
世界最大のガワール油田、サウジの石油生産の6割を生産する超巨大油田は、大量の海水圧入で自噴圧が維持しているが、この油田は1940年代に発見されたもの、現在の450万バーレル/日の生産維持には700万バーレル/日の海水が圧入されており、今では生産原油に3割もの海水が付随する。因みに世界第二の油田はクエートのブルガン油田であり、湾岸戦争の時放火された。イラクのキルクークは1920年代の発見であり、中東の巨大油田は皆老齢である。それ中東に世界、特に全面的にが頼っている、

そこでも日本のエネルギー専門家は言う、大水深の新地域などがあるなどと。これも間違っている。それは中東が地球上特殊な地域であることが分かっていない。中東とは2億年まえから超大陸が分裂して離れる過程で、成長した内海、古地中海、テチス海に沈殿した藻などの有機物の沈殿したものである。当時地球温暖化で二酸化炭素濃度が今より10倍も高く、気温は10度も高かく膨大な光合成の有機物生産があった。この内海は何億年も赤道直下に滞在し、海流などで攪拌されなかったため酸欠状態にあった。これも石油の醸成に幸いした。このような所が中東、億年単位の地球の変動過程で油田が出来た。

新地域、大水深、極域などがフロンティアがある、生産技術も進歩するというが、これも間違っている。それは資源としての質が、劣化する一方だからである。エネルギー資源において最も重要な事は「質」であり、その指標、エネルギーの生産する場合、出力と入力エネルギーの比、RPR(Energy Profit Raio)が今世界の油田で低下している。 勿論これが1.0以上でないと意味はない。オイルサンドなどの重質油は量は巨大だが、そのEPRは元気な油田に比して、遥かに低い。重質油などが量はあっても、価値において石油と全く違うことを理解すべきである。このEPRの重要性は石炭、原子量、あるいは太陽、風力などの自然エネルギーにおいても変わりはない。地球の有限を認め「高く乏しい石油時代」に備えるべきである。

京都議定書の遵守についても、石油はいくらでも需要に応えられると思って対策を考えるのと、そうではなく石油減耗を念頭において温暖化際策を考えるのでは、その論理に雲泥の差がある。人類は温暖化させられないかもしれないのである。
温暖化を危惧する余り、本筋を見失ってはならない.発電所の排気ガスから二酸化炭素を抽出し、深海に投棄する考えでは二酸化炭素削減が目的化している.水素社会をというのも水素何から作るかよく考える必要がある。化石燃料を使って水素社会を目指すのは、本末転倒である。原理的だが、温暖化対策として成すべきことは分かっている。近年様々な温暖化対策が話題だが、手段が目的化するものが多い。本気で戦略を構築する時に来ている。
浪費社会をそのままに温暖化対策はあり得ない。人類問題は、温暖化問題だけが特別なのではなく、それは現代社会の隘路の一つに過ぎない。原理的には温暖化対策として何をすべきか分かっている。ただ,現代人にそれを実行出来ない、利便な浪費社会を止められないのである。いま文明が変わりつつある。アジアもそうである。日本は21世紀、高く乏しい石油時代の備えるべきである。

石油減耗論に基づいて、化石燃料からのに酸化炭素の排出を見積もると、IPCCの最低線すら下回るとになるという見解がある。ASPOはこれを元に、(試案)石油減耗議定書(Oil Depletion Protocol)を提案している。そして石油生産の減少に合わせて、例えば、2015年には年率マイナス2.5%の消費減を目指すべきと述べている。この考えは、温暖化対策と軌を一に出来るもの、エネルギー源蒙の見地から、温暖化対策を更に総合的に進めるのは、基本的に望ましいことである。
成長神話を止めることが大切、地球は無限ではないからである。政府の統計に依ると「物より心の豊かさ」を願う国民の方が多いのである。ここに未来への重要なヒントがある。

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