「効率重視だけでない社会を」−日本の農業とエネルギー「危機的状態」
科学技術連合フォーラムが警鐘:科学新聞2002/7/26掲載


「石油の未来と日本の農業」(科学技術連合フォーラム世話人、石井吉徳)

現代農業は、高度に機械化され、大量の化学物質の投入で成り立っている。農業用機械は石油から作る燃料で動き、化学物質も石油から作られる。農業には、大量の石油が使われているが、特に日本はその傾向が強い。石油が不足すれば、国民の食の安全保障が脅かされるが、有限である石油資源は近い将来減退すると考えられる。

石油地質学者C.J.Campbellは、石油生産量のピークは二〇〇四年頃に頭打ちになると警告している。良い資源とは、十分に濃縮されているということだが、石油に匹敵するほどに濃縮された資源は見つからない。単に広く大量に分布するだけでは良い資源とは言えない。太陽、風力などの自然エネルギーの利用が、期待するほどには本格化しないのは、それらのエネルギー密度が低いためである。濃縮された資源としてウランがあるが、これも数十年程度の寿命である。その他、オイルサンド、メタンハイドレートなどもあるが、とても石油に太刀打ちできそうにない。
 
水稲栽培におけるエネルギー投入/産出の変化をみてみると、過去数十年でエネルギー投入は数倍にも増加したが、生産は五割程度増えたのみである。現代農業は全般的にエネルギー浪費型だが、ハウス栽培は特にエネルギー浪費が多い。季節のない野菜が代表的だが、これで高い収入を得ている農家もあり、単純に責められない。日本の穀物自給率は二四・六%であるが、米国、フランス、イギリス、ドイツなどは一一五〜一九〇%である。日本は他国に比して危機的な状況にある。石油供給に陰りがでた時、日本は基盤の脆さを真っ先に露呈することになる。世界は、この日本の弱さを知っているが、日本国民は知らない。北朝鮮は旧ソ連からの石油支援が途絶えた時、深刻な食糧危機に見舞われた。一方、伝統的な農業を維持していたキューバは、そのようなことは起こらなかった。日本は北朝鮮の二の舞にならないよう、早急に対策を立てる必要がある。
 
「食の汚染」に対する国民の意識も高まっている。食品添加物や遺伝子組み換え食品など食の未来は不透明になりつつある。これから人類は、再生的な自然エネルギーに合わせ「社会の遅さ」を身につけるべきである。「持続可能な社会」とは、早さよりも遅さを重視する、効率のみを求めない社会なのかもしれない。ライフサイエンスの進歩は、人類の生命、健康な生活へのメカニズムの解明に資するもので、新しい「エネルギーと農業のあり方」を目指す戦略的な国家設計、思考に用いられるべきである。日本農業の自立向上を計り、国際的な政治力を発揮することが望まれる。
 
(尚、これは日本の指導層への問題提起の要旨であり、全文は
科学技術連合フォーラムで見ることができる、2002−9)

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